轟音と振動。
第3者の介入には少し前から気が付いていた。
相手も気付かれるつもりでやっていたようだった。
そう、僕たちはゲームをしていたようなものだ、そして
僕はそのゲームに負けたということだ。
初めての敗北への苛立ちは暴れ出したいくらいだが、物理的に出来ない。
手足の自由を奪われているのだ。
おまけに目隠しまで。
何かに載せられて、何処かへ運ばれていることしか分からない。
僕に勝負をしかけてあげく勝利した奴が誰なのかさえ。
轟音だけが空間を支配する。
…仲間たちはいない、少なくとも同じ場所にはいないようだ。
しかし別々にしておく理由がない。
…これは表向きの組織じゃない。この扱いでもはっきりしている。警察なら逮捕を表明するだろうし、どこに行くのか隠す必要もない。つまり警察その他が見張っている中でどさくさに紛れて僕を連れ出したということになる。僕を狙うかもしれない組織なら沢山あるが…
…おそらく、この車は車庫に隠してそこから出発した。しかし車庫の前周辺は脱出口が多かったから本来は警備を厳重にするはずだ。昨日の時点ではそうなっていた。当日大きく変わったという話だったが、車庫周辺の警備を手薄にするはずがない。
しかし裏組織なら警察に見つかるわけにはいかないはずだ。当日の警備分布を知っていたのだろうか。
……例えば、こいつが警察に関係している。…さらに、警備分布を動かしている。とか?
そんな存在で僕を必要とするかもしれない人間、…
プツッ
『はじめまして』
耳元で囁かれる合成音声、どうやら通信機をジャックされたらしい。
「Lか?」
『はいそうです』
機械的音声は当たり前のように答えた。
核心をついた気でいた僕は莫迦にされた気分だ。
「一体僕をどうする気だ、抹殺でもするのか?」
『いいえそんな面倒なことはしません。それなら警察に渡します』
『単刀直入に言いますが、あなたに私のお手伝いをして頂きたい』
まさに単刀直入だ。
どうせこういうことだとは初めから理解していたが。
僕はその言葉の通りに進んだ状況を思う。
「…名探偵の駒か」
『嫌なら監獄行きです』
合成音声は脅迫するようにたたみかける。
はた目には究極の選択に見えるかもしれないが、僕個人としてはその二択は余裕のあるものだった。どちらも、入ってから逃れられる自信があったからだ。
「何故、僕なんだ」
『あなたにしかできない仕事があるからです』
予想以上の言葉に僕は目を見開いた、暗闇ばかりで何も見えなかった。
「僕を‘光’だと思ってるのか」
『‘光’かどうかは仕事を見ればわかることです』
全く相手に乗せられていると感づきながらも、僕は子供のような高揚を感じた。
不自由なら逃げればいいんだ、どうせなら…
「…何を言ったところで帰してくれる気はなさそうだな」
轟音が止まり、何者かが束縛をほどき始める。
『はい、実は。それでは早速仕事です。標的の建物はすぐそばです。必要そうなものは彼に渡しておきました』
扉が少し開かれて月明かりと電灯が眩しい。
束縛を解いてくれたらしき老紳士が紙数枚と鞄を差し出す。
鞄の中身はロープなどの簡単な道具がすこし、あとは獲物をここに入れろということだろう。紙は〔欲しいものリスト〕と書かれたものと詳細な見取り図だった。
「受け取った」
『それでは頑張って下さい。危険な任務ですので命は大切に』
「ご丁寧にどうも」
心にもない言葉に苦笑して、伸びをする。
荷台から飛び降り、標的であろう立派な建物を見据える。既に朝近い冷たい風が髪を揺らす。
さて、本日二回目の仕事だ。
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