とある夜のことだ。
ーあれ、竜崎。今日誕生日なんですか?
発端はコーヒーのおかわりを持って来た捜査官のその一言。
私自身もさっき気付いたばかりのところだった。
パーティをしようと誰ともなく言い出した。
仕事詰めの毎日にたまに休憩時間があったっていい。
そんな考えもあってか、誰も反対するものはいなかった。
しだいに準備は調えられていった。
といっても、全員座れるようにソファを持って来てもらったくらいだ。
肝心のケーキは、何故かしっかり用意されていた。
聞いてみると、こんなこともあろうかと思いまして、と答えた。
ーなになに、どうしたの皆?
その物音に気付いて彼女も下りて来た。
やっぱり来ましたねと言うと何で呼んでくれないのよ、と言った。
それから皆(といってもこの場にいないのは二人だけだった)を呼ぶことにした。
こうして簡素な誕生日パーティが始まった。
一般的にパーティをする人数としては少なかったが、
私はこんなに大勢で集まって雑談をするという状況に慣れていなかった。
しかし皆はそうでもないようで、自然に温かいような不思議な雰囲気を作っていった。
そうしているうちにケーキが配られた。
ーハッピーバースデイ。
それなりに騒がしくケーキを食べる皆を見ていると、
彼女が私の肩をつついた。
何ですかというと、彼女は自分のケーキの上の苺を私のそれに移動させた。
ー誕生日プレゼントってことで。
おどける彼女の台詞の真意に気付いて思わず吹き出しそうになる。
口の端が上がるのを抑えないまま、ありがとうございますと言った。
彼女はそんなに嬉しいかと聞くのでとりあえずケーキの上の苺は世界で3番目に重要な物質だと答えた。
1番と2番については聞かれなかった。
私は最後に食べるために二つの苺を皿に下ろして、一口目を口に放り込んだ。
いつもと全く同じ味なのに、と思った。
パーティはしだいに盛り上がり、
どこから持って来たのかわからないパーティグッズなどで遊びはじめた。
私はその様をじっと観察しながら、
こんな誕生日は何年ぶりだろうと思った。
そして、事の発端があの一言にあったわけではないということに気がついた。
私も彼もどうして今日が誕生日だと気付いたのかといえば、
そもそもケーキの上に乗っていたチョコレート細工に
happy birthday と記してあったからに他ならない。
そしてそれを書いたのは…
ー次は竜崎の番ですよ!
いつの間に順番に入れられていたのか、
私はタルの形をしたおもちゃにナイフを突きさした。
見事に一発で中の人形が飛び出したが、
何故か負けにされてしまった。
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